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NPO法人かわさき技術士センター

技術支援ニュース

No.29


2011年 6月号


発行責任 かわさき技術士クラブ

「大震災」に触れて    技術士(機械部門) 磯村 正義

 今回の大震災では多くの方が被災され、今なお苦しんでおられます。心からお見舞い申し上げます。 なぜこのような大きな災害が起きてしまったのか、またどうすれば速やかに復興し、災害の少ない社会を構築できるのか、 技術に携わる者としても多くのことを考えさせられます。
 私たちは技術の進歩によって多くの恩恵を受けてきましたが、 一方技術の進歩はリスクの増大と背中合わせだという事実を軽視してきたのではないでしょうか。 リスクとは、危険の大きさとそれが起る確率との掛け算です。「絶対に安全」という考え方は工学的にはあり得ません。 発生する確率がゼロならばどんな危険なことでも許されるということになってしまいます。 「想定外」という言葉もリスクを無視した驕りと言ってもいいでしょう。
 一方で今回の被害があまりに大きいため、一部には技術の発展そのものを否定しかねない議論も見受けられます。 しかし私たちが今考えていかなければいけないことは、 リスクの大きさを定量的に把握し、リスクと共存する社会のあり方を求めていくことです。 それは、このような大災害だけでなく、もっと身近な問題でも同様です。技術士はそのために大きな責任を負っていると感じています。

「リチウムイオン二次電池」、イオンと云う理由は  技術士(化学部門)  渡辺 春夫

 今や、ノートパソコン、携帯電話、携帯端末に至るまで、電源は、みんなリチウムイオン二次電池です。 さらに、ハイブリッドを含めた、これからの電気自動車の電源の本命にもなって、採用が始まっています。 これらの電池は、なんでリチウムでなくてリチウムイオンなのでしょうか。 負極のリチウムが、金属でなくて、イオンであるためです。 イオンであることにより、以下に述べるように、電池の安全性が格段に高くなりました。
 金属のリチウムの二次電池も世の中に出たことがありましたが、安全性が乏しく普及しませんでした。 金属のリチウムの二次電池では、充電時負極では、電解液のリチウムイオンが還元され金属リチウムが析出します。 すなわち、リチウムの電気メッキをしていることになります。 この場合、デンドライトと呼ばれる針状の結晶が、雨後のタケノコのように生成し、 これが成長を続けるとセパレータを突き破り、対極の正極に達します。 すると、内部短絡が起き、非常に危険が状態となります。
 そこで、リチウムを炭素に含ませることが考えられました。 ニトログリセリンが不安定なので珪藻土に含ませて安定化させたダイナマイトの発明に似たように見えます。 リチウムは炭素(黒鉛)の層状結晶の層間に入ります。層間化合物と呼ばれるものです。 これにより、上記のデンドライトによる内部短絡の課題を大きく改善することができました。 この場合、リチウムは、ほとんど金属並みに還元されているのですが、炭素と接しているので、 電子が僅かに炭素側に移動するので、わずかに正電荷を帯びて、イオン化しています。 ほとんど金属なのですが、イオンであると云う状態で、この状態に着目して、リチウムイオン二次電池と命名されました。
 現在、負極材料は、上記炭素系材料が主流ですが、さらに、高密度にリチウム(Li)を充填できる負極材料として、 ケイ素(Si)や錫(Sn)を用いた負極も実用化が始まりました。 この場合、SiやSnでは、Liとの合金を生成しますので合金系負極と呼んでいます。 また、リチウムイオンの挿入脱離の性質が優れ、サイクル性の良好な、チタン系の金属酸化物の負極も実用化が始まりました。 これらの新しい負極材料中においても、リチウムは、正電荷を帯びて、リチウムイオンであります。 目下、さらに、新しい負極材料の研究開発が進められており、リチウムイオン二次電池の高性能化、高安全化が進んでいます。

    

電力節減について:「電力消費の見える化が重要」   技術士(機械部門)  遠藤 民夫

 東京電力第一原発事故などから国内の電力需給が逼迫して来ました。 1976年のオイルショック以降、大手製造業では省エネの取組が行われて来たことは良く知られております。
 私はISO14001環境審査員として、多くの工場での積極的かつ継続的な省エネ努力を見て参りました。 「乾いた雑巾をしぼる。」と良く言われますが、まさにそれに近い実態であると感じております。 省エネ活動には二通りの方策があり、まず「設備更新」を行うもの、 もうひとつは「運用上の改善(日々の活動のなかで改善を積み上げるもの)」です。 設備更新では10~20%程度の大きな改善効果が期待出来ますが、費用その他の事情により、中長期の視点で改善する必要があります。 「運用上の改善」は、効果は小さいものの知恵と工夫次第で多様な改善が生み出されます。 工場の場合はこれらについて真摯に取り組んでいます。 それに引き換え、業務部門(オフィス、店舗等)、家庭での省エネ努力はどうでしょうか。 まだ改善余力が大きくあると感じます。
 資源エネルギー庁が「09年度エネルギー需要実績(H23.4.26)」で公表しているエネルギー需要実績の内、 電力需要だけで見ると2009年度では産業部門が2、883億kWhに対し家庭が2、860億kWh,業務部門が3、370kWhとなっています。 リーマンショックによる産業部門の落ち込みもあって業務部門の需要が上回っています。 昨夏、仕事で訪問した都内の企業のオフィスでは冷房が効き過ぎ寒くて上着が必要でした。 まだまだ省エネ感覚が無いと感じました。
 今夏の節電対策では業務部門の努力が最重要であると考えます。 中小企業の切り口で言えば、国内の企業の99.7%(約420万社、2006年経済産業省「工業統計表」)が中小企業であることから、 1社の小さな省エネ削減努力でもトータルで見れば大きな削減効果になります。 削減のポイントはまず自社の電力消費量を数値で知る事(見える化)です。 東京電力の請求書を見てください。次に、社内で使用している照明、機械、空調機などの定格消費電力を取扱説明書などで確認してください。 これらを表として集計し、稼動時間を考慮すると電力消費実態が大凡確認できます。 この中から、削減出来そうな省エネを実行してください。 さらに正確で量的に確認したい時は、電力消費量の計測が必要になります。 その場合には、かわさき技術士クラブにご相談いただければアドバイスいたします。

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2011年 6月 1日 発行 発行責任者: かわさき技術士クラブ 代表幹事 肥沼徳寿
E-mail: t_koinuma@mtf.biglobe.ne.jp
かわさき技術士クラブURL:http://gijyutusi-club.sakura.ne.jp/

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